ギ ャ ン ブ ル

帰り道、何故か千石さんに遭遇して、近くにあった公園に連行された。
今に始まった事ではないけれど、この人は、良く分からない。
「賭けをしようか。」
「嫌ですよ。」
「手厳しいなあ、日吉くんは。」
突然の言葉に、この人はふざけているとしか思えなくて即座に拒否する。
視界の隅で髪が揺れて、彼が顔を上げたのは分かった。視線を向ければ、楽しそうに笑う彼が目につく。でも彼は俺を咎めるつもりは無いらしい。
「うーん、残念。じゃあ、これは南にでもあげようかな。」
彼が鞄から取り出したのは、それからいつも出てくるカラフルな品々とは違う、落ち着いた色合いの袋だった。


この人は、ずるい。


「…分かりましたよ、賭け、しても良いですよ。」
諦めたように溜め息をつくと、彼はにっこりと笑みを深くした。


上手く踊らされている事実が気に入らないけれど、多分それ以上に好いているせいだ、と思う。


結局賭けに負けた、のだけれど、どうも腑に落ちない。


「千石さん、コイントスなんて、負ける気がなかったでしょう。」
「違うよ、何でやっても俺が勝つんだよ。」
悪びれもしないこの人は、賭けなど強い。自覚があるのは良いことか悪いことか分からないが、好物に釣られて、負ける賭けにのった俺はこの人に甘いのかもしれない。
根拠があるのかないのか分からない自信に溢れた声にさえ、苛立ちよりもらしいと思うしかないのが何よりの証拠だ。
「はい、あげるよ」
「え?」
「参加賞にね」
差し出されたそれを受け取ると、彼は笑いながら距離を詰めてきた。ガサガサと袋が音を立ててもお構い無しで、離れたいと思ってもそれは違うという気持ちが浮かばないわけではない。
「俺が勝ったんだから、これくらいは貰わないと、ね」
引き寄せられてシャッター音とフラッシュの光。
何をしたのかと良く見れば、彼は自身の携帯で写真を撮ったらしい。すぐに離れて満足そうに携帯の画面をチェックしている。
「うん、良く撮れた」
「な、千石さん、何を…」
「日吉くんとの、ツーショットだよ」
ほら、と見せられたのは携帯画面で、そこにはカメラ目線で笑う彼と、驚いた顔で彼を見る自分がいた。
「いやー、日吉くん、可愛く撮れてラッキー」
まだ少し近いままの距離からか、間抜けな顔を撮られたからか、俺はどうしようもなく恥ずかしくなって、慌てて彼の携帯を奪おうと手を伸ばす。
それも空しく空を切る手を、彼は優しく掴む。
「大丈夫だよ」
笑う彼に毒気を抜かれた。





「ちゃんと日吉くんの携帯にも送るから」





「な、何でですか!!」



fin.


日吉(南って、誰のことだっけ?)
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