アイコンタクト後日談

ア フ タ ー シ ョ ウ

「最近、跡部機嫌良いよな」
「せやねえ」
部活も終わり、部室で着替えたり雑談したりして過ごしているレギュラー陣。話題の中心は岳人の言葉通り、部長の跡部についてである。
幸い、跡部は榊と練習メニュー等の打ち合わせで今はいない。
樺地は慈郎を自宅に送り届けてから帰れと跡部に指示されて、慈郎を担いで帰った所だ。
「そうだな、なんか楽しそうだよな」
「そういえば、日吉も最近優しいんですよ」
「え、あいつは変わんねーよ」
岳人と忍足の話しに同意した宍戸につられるように、鳳が日吉の変化について口にすると、すかさず岳人が否定した。鳳は、でも日吉は最近楽しそうですよと必死に解説していた。



「…まだいたんですか」
部室の扉が開く音に、全員の視線がそこに向けられ、入ってきた日吉が居心地悪そうな顔になる。
「お、日吉ナイスタイミング!」
「ちょっと話しよか」
その隙を見逃さずに、岳人と忍足が日吉を部室のソファに座らせる。日吉はまだ練習したいだのと文句を言っていたのだが、宍戸や鳳までもが日吉を囲むように並んだため、諦めたようだ。
「日吉、最近跡部の機嫌、特に良いよな」
「そうですね、でもそれだけならもう…」
「あのさ、日吉も最近機嫌良いよね」
「…鳳、それは俺がいつも不機嫌ってことか?」
日吉が岳人の質問に答えた後に、鳳の投げ掛けた言葉は、日吉の機嫌を悪くさせるのにぴったりだったらしく、顔をしかめた日吉。
慌てて謝る鳳を激ダサだと言いながらも宥める宍戸は、やはり世話好きのようだ。
「そういや日吉、最近跡部とよう一緒におるやんな」
「そうですね」
「付き合っとるん?」




「あ、はい」





忍足の問いかけに対する日吉の答えに、部室内の時間がぴたりと止まる。
そして次の瞬間に日吉は四人の驚いたような視線を受ける羽目になってしまった。
「…ホンマなん?」
「嘘ついてどうするんですか」
忍足はからかうつもりでいたのだ。二人がやけに視線を交わしていたし、日吉も跡部も性格からして進展しなさそうだったから。それに、もしも付き合っていたとしても、日吉ならば真っ赤になって否定するだろうと思っていたのだ。
「おい日吉、いつからだよ」
とたんに目を輝かせたのは何故か岳人で、日吉の肩を掴んでがくがくと揺らして楽しそうだ。
「先週ですけど」
「どっちが告白したんだ?」
「え、日吉からじゃないの?」
返答と間髪いれずに問いかけた岳人の言葉に、鳳がさも当然と言わんばかりの口調で質問を重ねる。
「跡部さんからです」
「マジかよ…」
呟いたのは宍戸で、あいつが自分から告白するなんてと、まるで世の終わりが始まりそうなくらいに覇気がない声をしていた。
「じゃあさ、もうした?」
「…あぁ、はい」
「早っ!」
予想外に展開されていく話に、鳳と宍戸はついていく気を失ったらしい。岳人の問いの意味を考えてから答えた日吉に、すかさず忍足の突っ込みが下される。ここにいた四人全員、日吉はこういう話は苦手だと思っていたのだが、意外にもあっさりと答えてくれているこの現実が夢なのではないかとさえ思えてしまう。
「日吉が下なのか?」








「跡部さんですけど」








その言葉は四人の時間を止めるには十分すぎる効果があったようで、日吉はこれ幸いとばかりにロッカーからタオルを取り出し、再び自主練習をするべく部室を後にした。





その後部室にやってきた跡部が、四人に質問攻めにあったのは言うまでもない。


fin.


跡部「お前あっさり答えすぎだろ」
日吉「跡部さんに悪い虫がつかなくていいじゃないですか」
跡部(……こいつ…先輩を敬う気ゼロかよ…)
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