いじわるなかみさま

神がいるならきっとその神はサディストだ。





「何ですかいきなり」
「別に、何となく」
さっき聖書配ってたお姉さんに、神は我々を導く試練を与えたもうたとか言われたのだと笑う千石は、丁度運ばれてきたオレンジティーを一口飲んだ。
待ち合わせて、少しゆっくり話そうかと喫茶店に連れてこられた日吉は、文句を言いながらも千石の言葉の続きを待った。じっと。
千石の突飛な話は、大抵クラスの女子とか、道端で気になった女の子とかが話をした内容が発端だ。最初は機嫌を悪くしたが、日吉はそれにもう慣れていた。
それは諦めでも何でもなく、日吉しか知らない千石というものが増えてきたからだ。それでも少しくらいは止めてほしいと思えど、毎回のように良い雰囲気の店を聞き出して来る(しかも毎回違う店だ)手腕はどうしたって尊敬に似た感情を抱いてしまう。
結局それは惚れた弱味なのかもしれない。
「俺はね、神様がいるのなら何でも包み込むもんだと思うんだ」
「それは聖母じゃないですか」
「だから、試練なんて与えないで生ぬるい幸せに浸からせる神様がいたら良いと思うよ」
「それじゃ人間が落ちぶれそうですけどね」
日吉の返答に、千石は最もだと笑う。
カランと、日吉のアイスティーに浮かぶ氷が音を立てて、それを合図にするようにテーブルの下で千石の手が日吉の手を捕らえた。
「人間から産まれて人間の世で生きた神は果たして神なのかな」
「気の持ちようでしょう」
「まあ俺だったら、試練しかくれない神様よりも、幸せをくれる日吉くんが良いんだけどね」
「千石さんの考えに沿うと、俺も、神様よりも千石さんが良いです」
サディストな神の目を避けるようにテーブルの下で合わせた手は、冷房の強い店の中でも温かくて、二人はどちらからともなく笑った。結局、いつもこうして突飛な話題から始まるディベートの幕は閉じる。
千石が誰かからの話を元に突飛な話題を出したとしても、結局自分に結論が向かうのならば構わないと日吉は思う。だから、素直に吐き出せない愛を形にする機会をくれた、なにも知らない彼女達など些細な問題に過ぎない。

「これからどうしようか」
「教会でも行きますか」
「日吉くんから言われると不思議な気分だなあ」
「…じゃあ止めます」
日吉の言葉に、千石はオレンジティーを飲むのを止めて笑いながら口を開いた。手は相変わらず繋いだままで、なんて恥ずかしいんだと日吉も千石も考えていたのだが、効きすぎた冷房で冷える体に伝わる手からの熱は心地よくて、どうしたって離そうと思えなかったのだ。
「分かってるよ、神様に宣戦布告するんでしょ?」
「下剋上です」
小さな喫茶店の片隅で、神様への反抗因子誕生。


fin.


日「そこで見たのが戦前に埋葬されたおばあさんで、その人は旦那さんの形見を奪った人間を」
忍「ノロケか怪談かどっちかにせえ!」
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