tear

心の力なんて、バカみたいだ。

誰も彼も、そんなのに縋った所で、一番脆いじゃないか。

 

その、心の力とか言う奴は。

 

 

ギリと噛み締めた唇に、少しの痛みを感じる。
だが、そんなことはどうでもいい。
一人部屋で考え事をするなんて、しかもそれが、今までずっと嫌悪していた心の力のことだなんて。
自分でもバカみたいだと思う。

けれど、よくよく考えれば、自分もその心の力という奴の恩恵にあずかっていると思うと吐き気がする。

フォルスは、自分の心で制御され、均衡を保つ。
それはすなわち、フォルスは心の力であるということ。
そういった矛盾が自分の中にあるだけで、イライラが積もっていく。

「全く、ボクもバカだね。」

小さくつぶやきながら、テーブルに置かれているビンをぼんやりと見つめる。
自分の髪の色よりも少し濃い赤色をしたグミ。
ガラスの反射と、そのグミの反射が目にまぶしい。
こういう、物として生まれてきたら随分楽だったかもしれない。
珍しく弱気な自分に自嘲しながら、テーブルに突っ伏した。

本当は分かっていた。

今までの自分が全て不安定な自意識に支えられていたことも。
過去に囚われている小さな自分が、いつでも自分を見ていることも。

心の力を認めたくない。
認めない。
けど、心の力でフォルスを制御しているのは事実。

 

矛盾ばかりが体を巡って、吐き気がする。

 

「いつか、認めさせてやる。」

 

― いつか、自分が安心できるように。

 

心の力なんて、幻想に過ぎない。
少しのことでだって、壊れていく。

 

テーブルを力いっぱい叩いて自分の気を落ち着かせる。
激しい音に、廊下を歩いていた兵士がドア越しに声をかけてきた。

「サレ様、何かあったのですか?」
「いや、何もない。ただ、物を落としただけさ。」
「そうですか、失礼しました。」

「―――ああ、そうだ。」
「ハッ、何か…?」
「ジャムが切れてたんだ。持ってきてもらえないかな?」

「かしこまりました。」

 

兵士の足音が聞こえなくなってから、一人でドアに凭れて、座り込んだ。

 

 

「心なんて、無くていいんだ。だからボクが、つぶしてあげるよ…。」

 

 

チラリと横切った昔の記憶に、一筋の涙が流れたのは、気付かない振りをすることにした。

end.


after works
弱い心なんていらない、んだよ。

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