一 輪 草

城は、いつまでたっても、居心地の良いものではない。
落日以前からのヒューマの能力者ということで、奇異の目、畏怖の目で見られた。
城にきた当初は、そんな視線、態度に嫌気が差した。
家に居た頃となんら変わりが無い。


今は、それが余計酷いような気がした。


ヴェイグ達への敗北、城内の混乱、ガジュマとヒューマの対立。
女王がヒューマの娘を集めろと命令した時から、たくさんのことが起こりすぎたような気がする。
特にヴェイグ達がクレアを取り戻そうと城に侵入した時から。
ヴェイグ達に負けるなんて思ってもみなかった。
あの時、不気味なバケモノが出てきたらしい。そんなこと、どうでも良かったけれど。
その後、女王は行方不明、突如ガジュマとヒューマの間がこじれ始めた。後者は世間での印象らしいが全く馬鹿らしい。
それでも、ガジュマとヒューマの対立が各地で問題になっていると、正規軍は慌しそうに右へ左へと走り回っている。
それは、城内でさえ例外ではなかった。
城内の重要な警護は全てガジュマ。ヒューマなど殆どいやしなかった。
女王の世話係でしかなかったジルバが、いまや完全に実権を握っていた。
全てを思い通りに動かそうとする彼女も、ガジュマだ。
四星という立場が無かったら、もしかしたらとっくの昔に城を追い出されていたかもしれない。

「サレ様。」

部屋の窓から、慌しく動き回る軍隊を見ていたサレの耳に、兵士の声が聞こえた。
サレは、小さく、誰にも聞こえないように舌打ちをしてから、扉へと近づいた。
「なんだい?召集かい?」
「はい…将軍が四星を呼んでくれと。」
「…へぇ?珍しいねえ。」
そう言いながら、サレは扉を開いた。
城の廊下は、王の盾の兵士達が警備をしていた。
やはりというべきか、ガジュマが多かった。勿論、サレを呼びに来た兵士も。
サレは一瞬、眉をしかめたが、兵士はそれが招集に対しての事だと考えた。
「で、場所はどこだい?」
「…はい、城の上層にある会議室です。」
「…そうか、ご苦労。もう持ち場に戻っていいよ。」
召集を伝えた兵士を退かせて、そのまま会議室へ向かう階段を上る。
城は複雑な構造ではないにしろ、部屋が多すぎる。
初めて城にきたときなど、案内してくれた人の後を付いていくので精一杯で、部屋の位置など覚えていられなかった。
遠く見えた天井も、いまや近く。
相変わらずの周囲の視線と態度、そして噂。



― 全く、バカばっかりだ。



next→


ウィンドウを閉じてお戻り下さい