一 輪 草 - 2 -

ふっと嘲笑を漏らし、到着した会議室の扉を開く。
重厚な扉のきしむ音が嫌に耳に響く。
その音が、何かを予告するかのように気持ちを高ぶらせる。
部屋には既に、トーマ、ワルトゥ、ミリッツァ、ミルハウストがそれぞれの席に座っていた。
開いた扉に立っていた人物を見て真っ先に口を開いたのはミルハウストだった。

「遅いぞ、サレ。」

「それなら、召集命令を伝えた兵士に言ってくださいよ、将軍閣下。」
何せ、命令を伝え聞いたのはつい先ほどのこと。
遅いと咎められるような悪意は無かったのだ。本当なら無視を決め込んでも良かったのだが。
恐らくあの兵士はまだ城内に不慣れな新入りだったのだろう。
そんな奴に重要な召集を伝えさせるなど、最近の混乱のせいでよっぽど人手が足りないのだろうか。
来ただけ良いと思えという意味も込めて、チラとミルハウストを一瞥して、書類が置かれた空いている席に座った。
ミルハウストはといえば、そんな意図を汲んだのかどうなのか、軽く溜息をついて書類を開いた。

「……ラジルタにおいて、ガジュマとヒューマが一触即発の危機らしい。」
「…ラジルタといえば、前々からガジュマとヒューマそれぞれに族長がいましたな。」
「あぁ。それが、どうも最近酷く険悪になっているようだ。」
ワルトゥの確認の言葉にも相槌を打ちつつ、現状を訥々と述べていくミルハウスト。
特に任務を任されるというわけではないらしいことを判断して、一応書類だけは開いて、話を右から左へ聞き流しながら様子を伺うことにした。
ミリッツァは興味が無いのかどうなのか、資料すら開いていない。
かと思えば、トーマは一応書類を開いてはいたが、こういう場所での仕事は不向きであることが見てとれた。
何せ、もう既に眠気と戦っているのがチラと盗み見ただけで分かったのだから。
そういえば、自分が王の盾に入って初めての会議のときには、会議室のイスに座っただけで眠っていた記憶がある。
何せ殆どが当時の自分には理解できそうも無いほどに難しく思えたし、特に任務以外の仕事に対して興味がなかったからだ。
任務以外の仕事に興味がないのは今も変わらないが。
そして決まって、ワルトゥかユージーンか、正規軍との合同会議となればミルハウストに小突かれた。
彼ら以外の他の誰もが、自分のこの能力―フォルスを恐れていて、そしてなかなかそういった行動に出ないのも知っていた。
自分たちガジュマにはあるから普通に接するくせに、それがヒューマにあるとなるとおっかなびっくりだなんて、それでも本当に軍の精鋭なのか。
結局どこに居ても居心地は悪いものなのだと思ったことを覚えている。



―それにしても、最近嫌になるくらい過去のことを思い出す。



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